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第1章 1.12 撹拌・乳化

1.12.1 目的

(1) 撹拌1)2)3)
 乳化とは、水と油のようなお互いに溶解しない液体のうち、どちらか一方の液体が微細な液滴となって他方の液体中に分散する現象をいい、乳化によって得られる分散液をエマルションという。エマルションは微細な液滴のコロイド分散系であるため、熱力学的に不安定な系である。したがって、エマルションを調製するためには特別な工夫が必要である。
 工業的にエマルション製品を製造することを考えると、界面エネルギー(界面張力)を低下させることができる適切な乳化剤(界面活性剤)を添加し、さらに、外部から機械力(撹拌という機械的エネルギー)を付与する必要がある。このとき、撹拌は主に下記の目的で利用されるが、エマルション製品を製造する際には、特に①の目的を達成することが重要である。

① 微細な液滴を生成する。
② 分散液中の成分の偏りを低減する。
③ 分散液中の温度ムラをなくし均一な液温とする。

(2) 乳化で得られるエマルション製品4)5)
エマルションは特異な物性を有する場合が多いので、例えば以下のような目的で、様々な分野においてエマルション製品を製造がなされている。
【化粧品】
① 皮膚に対して、良質の油性成分や保湿性の高い親水性成分をバランスよく与える。
② 化粧持ちやのびを良くする。
【医薬品】
① 難溶性薬物の溶解度向上や消化管からの吸収率の低い薬物の吸収改善をする。
② 乳剤性軟膏とすることで、可洗性や皮膚浸透性に優れる。
【食品】
① 口どけ感、コク、もちもち感、しっとり感等の食感を与える。
【農薬】
② 植物体に対して、散布液の濡れ性や浸透性を向上させ薬効を高める。
【塗料】
③ 有機溶剤の使用量を低減する。

1.12.2 装置の分類と原理6)

 上述したように、エマルションを調製するためには撹拌によって微細な液滴を生成しなければならない。一方、多くのエマルションは、大きな力を付与しないと容易に流動しないことが知られている。そのため、例えば、次で示すような機械力が利用される。
【せん断力】
① 流体の内部の任意の面に関して、面に平行方向に作用する力である。
② すなわち、流体がずれる変形を起こす作用力を意味し、流体に対して大きな速度差が生じるときに発生する。
【キャビテーション力】
① 液体の流れの中で、圧力差により短時間で泡の発生と消滅が起きることがある。
② このとき、泡の膨張・収縮、泡へ流入する流体同士の衝突、衝突に伴う振動等が引き起こ され、このような現象が機械力として寄与する。
【衝撃力】
① 流体同士や流体と撹拌羽根等との衝突の際に、きわめて短時間にだけ働く非常に大きな力 である。

乳化時には、このような機械力を付与することができる装置が工業的に使用されている。ここでは、次の2 種に大別して説明する。
(1) 高速撹拌機
 撹拌機の回転数を高くすると、上述した大きな機械力を有することが知られている。そのた め、高速撹拌機を使用すると、この機械力によって微細な液滴を生成させるので、効率的に乳 化を促進することができる。
 高速撹拌機の代表例であるホモミキサー(高速乳化ミキサー)は、その撹拌部が図1.で示 す部品から構成されている。ステーターとタービン羽根間は約0.5 mm の隙間となっており、 流体はこの隙間を通過して上部に押し出される。このとき、機械力が流体に付与されるので微 細な液滴が生成する。

(2) 高圧ホモジナイザー
 予備的に乳化されたエマルションが、圧力により細管内を超高速で通過し高速で噴出するとき、生じる機械力によって液体は液滴に分裂する。このとき、高速撹拌機と比べて非常に強力な機械力が付与されるため、高速撹拌機で生成する液滴よりも小さな液滴が生成することが多い。図2.は、エマルションが通過する高圧ホモジナイザーの細管例を示す。
 高圧ホモジナイザーの方式としては、高圧バルブ式と流路固定式がある。

1.12.3 運転パラメータ

 エマルション製品の製造に必要な撹拌について考えると、流体に対して付与すべき全機械力の大きさは、撹拌に伴う機械力自体の大きさとそれを付与する時間によって決定されると考えられる。したがって、良好なエマルション製品を製造するためには、例えば、次で示すような撹拌に係る運転パラメータを設定する必要がある。
(1) 高速撹拌機
 【選定】
 ① エマルション製品の製造に適した撹拌機の構造
 ② 処理量に応じた装置
 【せん断力等の大きさ】
 ① 高速撹拌機の回転数
【せん断力等を付与する時間】
 ② 高速撹拌機による撹拌時間
(2) 高圧ホモジナイザー
 【選定】
 ① エマルション製品の製造に適した方式
 ② 処理量に応じた装置
 【せん断力等の大きさ】
 ① 使用圧力
 ② 細管構造
 【せん断力等を付与する時間】
 ① パス回数(処理回数)

〔みづほ工業株式会社 榎本 康孝〕

参考文献

1) 社団法人日本油化学会、界面活性剤評価・試験法、㈱技報堂、206-208 (2002)
2) N. K. Adams、 The Physics and Chemistry of Surfaces、 Dover Pub.、 New York (1968)
3) 野呂俊一、化学工学からみた乳化工程、表面、㈱広信社、18(11)、595-611 (1980)
4) 光井武夫、新化粧品学、㈱南山堂、324-325、 385-386 (1993)
5) 社団法人日本油化学会、界面と界面活性剤 -基礎から応用まで-、㈱技報堂、218-236 (2004)
6) 日本化粧品技術者会、最新化粧品科学、㈱薬事日報社、738-752 (1988)

更新日:2020年10月16日